この仕事を始めてから、昆虫への造詣が深い方とお会いすることが多い気がします。
かくいう自分も学童期こそ、放課後はもっぱら遊戯王カードか昆虫飼育かというほどの熱の入りようでしたが、中学生にもなると幼少の嗜好なんぞは真新しい日常に隠れてしまい、以来10数年、昆虫とは無縁の生活を送ってきました。
しかしここ数年、昆虫好きの方と関わるうちに影響されて再燃。
図鑑を買い、ルーペを買い、幼少期と違って、カブトムシ・クワガタなどの人気種よりもやや小ぶりな甲虫を好むようになり、昆虫採集の目的も飼育から標本作りへと、楽しみ方もすこしずつ更新されていきました。
担当番組が落ち着いた先月、一人旅行も兼ねて「フェモラータオオモモブトハムシ」を捕まえるため三重県に赴きました。
「フェモラータオオモモブトハムシ」は、その名の通り後脚の腿節(モモ)が太いハムシ。熱帯地域原産ですが、2009年ごろから三重県松阪市で確認され、近年は大阪や兵庫でも確認されている外来種です。
向かったのはネットでの目撃情報が多くあった松坂市の某河川敷。
炎天下での長丁場を覚悟して大量の飲料水を買い込んだものの、茂みに入ってわずか数メートルで葛の葉を食べている個体を発見。いきなりすぎて動転してしまい、咄嗟に頭に浮かんだのはどう捕まえるかではなく大量の飲料水をどうするかでした。
兎にも角にも、いわゆる発掘モノのような劇的な展開などはありませんが、目当てのものを見つけた瞬間はこの上なく気分がいいです。手にとって見てみると、赤い構造色が煌びやかで、部分的に青が差す不思議な色味をしています。
モモの発達具合の勝手なイメージから、飛んだり跳ねたりするのかと思いきや、手のひらから指先までをのしのし地道に歩いていました。
「フェモラータ」はその日のうちに締めました。
外来種なので生体をそのまま東京に持って帰るわけにもいかず、ホテルの冷蔵庫で処理しました。これから自宅での乾燥・展足を経て、まだ種類の少ない標本箱に収納されます。申し分のない余暇。この仕事をして、然るべき方と出会わなければ味わえません。
好きなことばかりを仕事にすることは難しいかもしれませんが、人との出会いを介して好きなことが増えるのもこの仕事の醍醐味だと思います。