12年前入社したての私は先輩ディレクターのHさんと新宿はションベン横町の焼き鳥屋に。Hさんは瓶ビールで喉を潤すと開口一番「キムラ、男には渡っちゃいけない橋があるんだぜ」と。「一休さんのトンチかな?」と思い必死に答えを考えているとHさんは「男と女の間には深い河とそこに掛かる橋がある、とすると俺ら(=男)は自ら渡っちゃいけない、女に惚れさせて、あっちから渡って来させるんだ」Hさんは更に続けて「ディレクターってそんな稼業なんだぜ!」と言い放ち、一本のレバーを丁寧に二人分に分けていました。
(後にその問答はHさんの先輩Mさんから授かった言葉だと知ります)
そんな訓示を頂いたADの私は「D(ディレクター)ってモテるんだ!」と勘違いし、同期や先輩の誰よりも早くDになりたい(=モテたい)と、日刊紙はおろか業界誌まで購読したり、聞き取りのリサーチにも頻繁に足を運んでいました(休暇を利用して北京へ行った事も)。
で、なんとかDになりました。しかし、期待していたほどモテません。まぁそれは良いのですが、10年もDをしていると、あの頃の様な必死さが欠如している自分がいます。ADの頃は、どこか間違っていましたが、そのやる気は一直線でした。迷いながら、体調を崩しながら、寝不足になりながらも、ようやく生み出した番組はやっぱり奇妙な魅力を放っています。これからもこの仕事を続けていくには、ADの頃の様な一途さを忘れたくありません。なぜなら、代表作と胸を張って言える番組は作っていませんから。
そして、いつかこの文章の存在を知らない後輩を居酒屋に誘って自慢げに言ってやるのです。
「男と女の間には・・・」 う~ん、これではやはり、モテません・・・