幼い頃から漠然と映画が好きだったので、新卒では劇映画を作るべく別の制作会社へ入社。自分で選んだにも関わらず、総勢100人を超える大所帯の中で、「自分がいる必要あるのか…?」などと悩むように…
気づくとドキュメンタリーに惹かれていました。
個人的な興味関心や問題意識を起点にして各地に飛び、時には生き様を晒しながらも被写体と向き合って、世界の断片を映像で届けるドキュメンタリーの作り手たちへの憧れが募っていたのだと思います。
そのきっかけの一つは、ドキュメンタリージャパンが運営する座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルでETV特集『7人の小さき探求者~変わりゆく世界の真ん中で~』を観たことでした。
東日本大震災をきっかけに、哲学対話(p4c)が授業に導入された気仙沼の小学校に通う6年生7人。コロナ禍で突然の休校を告げられ、大人たちの決定に納得できないまま卒業前最後のp4cを始めた7人を記録したドキュメンタリー番組です。
言葉に還元できない映像の力を浴びに浴びて、鑑賞後居ても立ってもいられなくなり、会場に来られていたディレクターの松原さんを帰り際に呼び止めてしまいました。その後も長々と感想をメールでも送ってしまいましたが、「いい受け手から、作り手へ」というあまりに簡潔で素敵な返信をもらったことが、今でも大切な初心になっています。
ドキュメンタリージャパンに転職して2年目、先日ディレクターデビュー作のミニドキュメンタリーが放送されました。これまでを振り返ってみると、自分にとっての起点が線として結びついていたんだと思わされました。
ざっくり振り返ると…
映画『ハッピーアワー』の登場人物を演じた柴田修兵さんが夫婦で鳥取県湯梨浜町に移住し、jig theaterという"戸惑い"をコンセプトにした映画館を作ったと知る
↓jig theaterで映画を観るために湯梨浜町へ行き、柴田さんの移住の決め手にもなった汽水空港という本屋に寄る
↓汽水空港で建築家・作家・画家・音楽家…の坂口恭平さんの本『独立国家のつくりかた』と出会う
↓その本で書かれていた0円経済、態度経済など資本主義とは別の経済や共同体のあり方に興味を持つ
↓その流れで「くにたち0円ショップ」という国立駅前の路上で開かれる0円ショップのことを知る
↓「くにたち0円ショップ」のSNSで、多摩川河川敷で開かれる持ち出し自由、返却不要の青空図書館「川の図書館」を知る
↓「川の図書館」のミニドキュメンタリー企画をNHKに提案してディレクターデビューする
この他にも、『独立国家のつくりかた』を読んでから興味の中心になっていた坂口恭平さんの個展に行き、帰りに寄った飲み屋で坂口さんと同席することになり、ドキュメンタリーを撮らせて欲しいと伝えたところ快諾していただくなど、奇跡みたいな偶然も起こりました。
「好き」や「違和感」など、自分が大切にしていきたいと思う生理的な感覚を起点にして、数珠つなぎのように人との出会いが生まれ、それが仕事にも繋がるのは心から嬉しいことです。ですが、その“大切にしていきたいと思う生理的な感覚"という抽象的なものを、具体的な言葉にしてスタッフに伝え、最後には映像として観る人にまで届けるのは本当に悩ましくて難しいことだと、ディレクターデビュー作の放送を終えて、身に沁みて感じました。
反省点の多いデビューでしたが、『7人の小さき探求者』の1人、まるさんが対話の中で言っていた“形だけの大人"にならず、いい作り手になるためにこれからも悩み続けていきたいです。